【特定支出控除】サラリーマンの経費の上乗せについて税理士が解説
サラリーマンには年末調整などの制度があり、確定申告を行う機会が限られています。
一方、個人事業主は売上も経費も自分で集計し、所得(利益)の計算を行い毎年確定申告を行うため大変です。
ただし、サラリーマンからしてみれば、個人事業主の友達が色々と経費で落としているという話を聞いて、いいなと思うことがあるかもしれません。
しかし、隣の芝生は青いです。実態はその逆である(サラリーマンの方がいいなと思われている)ケースが多いです。
この記事では、以下の3点について税理士の坂根が解説します。
- 所得税の仕組み
- サラリーマンには多額の経費が認められている
- サラリーマンの経費の上乗せ「特定支出控除」
パソコンを使ってテレワークをして経費も増えていると思いますが、サラリーマンは優遇されている、この理由について解説していきます。
所得税の仕組み
個人が稼いだ利益や給料に対しては、所得税等の税金がかかります。
所得税等は稼いだ利益の額に応じて税率が変動し、所得が少ない方で15%程、所得が多い方で55%程の税金がかかります。
利益は、売上や給料など、儲かった収入から経費を差し引いて計算を行います。
なお、サラリーマンは経費の集計を自分で行いません。
ただし、それはサラリーマンに経費が認められていないという意味ではありません。
サラリーマンは経費が認められないのか?
サラリーマンは、皆さんが気が付かないだけで多額の経費が認められています。
「サラリーマンが自腹の飲み会に行っても、勉強のためにセミナーに参加しても経費として認められないじゃないか」という考えもあります。
確かに、実際に支払った金額が経費として認められているわけではありません。
サラリーマンは、基本的に確定申告を行わなくて済むように簡便的な経費計上(給与所得控除)が認められているのです。
概算経費(給与所得控除)
サラリーマンの経費は、概算で認められています。
年末調整を行う際、従業員1人1人の経費がいくらであるという計算を行うことは容易ではありません。
従って、国が一律いくらを経費として認めるという仕組みを設けています。
それが「給与所得控除額」と呼ばれる仕組みであり、基本的には以下の表に基づき経費の計算を行います。
上記の表は計算してみるとわかりますが、経費となる金額がとても大きいです。
たとえば、年収800万円のサラリーマンであれば200万円(※)が経費として認められていることになります。
※ 800万円×10%+120万円 = 200万円
テレワークをして、いくら経費がかさんでいるからと言っても、流石に200万円を使うことはないでしょう。
サラリーマンの経費枠が足りない場合(特定支出控除)
支払った経費が上記の枠内に収まらないサラリーマン(とても多くの経費を支払うサラリーマン)のために、近年創設された制度で「特定支出控除」というものがあります。
特定支出控除とは
特定支出控除とは、上記で説明した「給与所得控除額」の半分を超える支出があった場合、追加で経費を認めるという取り扱いです。
支払うものに制限はありますが、例えば、仕事に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出(研修費)であったり、仕事に直接必要な資格を取得するための支出(資格取得費) 、また、仕事に関連する書籍の購入費用など幅広く認められています。
条件が厳しすぎる
この制度は一見すると良さそうですが、実は使い勝手が非常に悪い制度です。デメリットをいくつかご紹介します。
金額の条件が厳しい
まずはこの制度、サラリーマンが自腹で支払ったものが条件です。
先ほどの例で言うと、年収800万円のサラリーマンに認められる概算経費の枠は200万円です。
これの半分である100万円を超えた場合に追加経費が認められることとなりますが、自腹で100万円を支払うケースというのはそうそう無いでしょう。
所得税の確定申告が必要
次に、特定支出控除の適用を受けるためには所得税の確定申告が必要となる点がデメリットです。
ふるさと納税のワンストップ特例も使えなくなり、所得税の確定申告書にふるさと納税についての記載を行う必要が生じます。
あまり節税にならない
例えば年収800万円のサラリーマンが経費を150万円自腹で支払ったとします。
その場合、経費の上乗せが認められるのは50万円(※)です。
所得税等(所得税+住民税)の税率が30%としたら、15万円(50万円×30%)の節税効果です。
150万円分の領収証等をため込んで確定申告まで行って、ようやく15万円です。
手間の割にはお金にならないと言えるでしょう。
※実際の経費150万円 – 概算経費200万円 × 1/2 = 50万円
最大のハードル:会社の承認が必要
人によってはこれが最大のハードルになるでしょう。
仕事の遂行に直接必要な支払いであることについて、会社の証明が必要になります。
国税庁のWebページにフォーマットがありますが、例えば、研修の場合は以下の用紙をご覧ください。
研修内容や研修場所、研修期間などを記載し、会社に対して仕事のために直接必要なものであることの証明書を発行してもらう必要があります。
以上のように、中々厳しい条件があるため特定支出控除という制度は滅多に使われていません。
なお、例え「特定支出控除」が使えなくとも、上記で説明したようにサラリーマンの経費は概算で認められており、個人事業主よりも遥かに優遇されていると言えます。
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注意事項 ※1 本記事は2019年7月現在の法令等に基づき記載しています。 ※2 本記事は一般的なケースに基づき記載しています。実際の申告等にあたっては顧問税理士等へご相談ください。 ※3 本記事に記載された内容に従って行動された結果生じた損失については、弊社では一切の責任を負いかねます。
投稿者プロフィール

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税理士
【寄稿実績など】
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01CHANNEL(株式会社ウェイビー運営)
税理士2.0 AKIRAチャンネル(レッドスターコンサルティング株式会社運営)
TAKA World Peace(株式会社グローバルマーケット運営)
【著書】
相続実務のツボとコツがゼッタイにわかる本 (2021年発売予定)
【メディア運営】
税理士による相続メディア:あんしん相続税 などを運営(合計:月間10万PV)
【経歴等】
士業など専門家1,500人以上の団体の理事に就任している。業界最大手のデロイトトーマツ税理士法人の出身であり、売上高数千億円規模の外資系企業の申告や、個人資産百億円規模の方の税務相談経験も多数あり、創業から上場まで対応が可能である。また、Twitterでは1万人のフォロワーを有しており、経営者や士業が年間数百名参加する交流会を開催する等、強い影響力を持っている。
【事務所情報】
ブラッシュメーカー会計事務所:東京・神田にオフィスを構える税理士事務所です。
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