ローンだけを引き継いで相続税の支払いも必要という二重苦、これはありません。
ローンを抱えている方が亡くなった場合、のこされた遺族としては、
- ローンの返済
- 相続税の支払いがどうなるのか
こういったことが心配ではありませんか?
この記事では、
- 亡くなった方にローンがある場合にどうすべきか
- 相続税の支払いはどうなるか
この2点について解説を行います。
身内が知らないうちに借金やカードローンを抱えていることは珍しくありませんので、相続の仕組みや相続税の仕組みを正しく理解し、相続で失敗しないための知識を身に着けてください。
なお、動画で要点をまとめていますので、動画で確認したい方はこちらをご覧ください。
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目次
ローン(借金)が残っている場合の相続のポイント
ローンが残っている場合の相続では、そもそもローンがあること自体を相続人が知らないことも珍しくありません。
生前に家族に内緒で消費者金融からお金を借りていたり、リボ払いを繰り返した結果クレジットカードの返済額が高額になっているケースも見受けられます。
そのため相続が起きたときには、ローン残高がどれくらいなのか、他にもローンがないかどうか、しっかり確認をすることが大切です。
そこで、ローンの確認方法や確認をする際に意識すべき期限などをご紹介します。
なお、以下に記載するのはあくまでも一例です。実際に相続が起こった際は、ローンの確認作業に慣れている弁護士や司法書士等の専門家に相談することをお勧めします。
ポイント①:早急に債務調査を行う
相続が起こったとき、亡くなった方から引き継ぐものは、現金や不動産などの財産だけではありません。借金があればそれも同様に、相続人となった方が引き継ぐことになります。
事業を行っている社長であれば、ビジネス用にローンを組んでいることは一般的であり、借金以上の財産があればあまり問題にはならないでしょう。
しかし、そうでなく、単純に財産よりも借金が多い場合には、この借金を引き継ぐことは避けた方が良いでしょう。このように、財産と借金などの負の遺産のどちらが多いかをまず確認し、「相続放棄」と呼ばれる手続きを行うか検討を行いましょう。
亡くなった方からの遺産や借金を相続する権利を放棄する手続きを「相続放棄」と呼びます。この手続きを行うことによって、借金を引き継がないようにすることができます。
なお、相続放棄ができる期限は決まっていることから、死亡後、すぐに債務調査を行い、債務額を明確にしなければなりません。
>>【相続放棄】借金を継がないための期限は3か月!?相続放棄ができないケースについて司法書士が解説
ちなみに、故人が隠れて借金をしていた場合だと、すべての債務を把握することは簡単ではありませんが、債務調査の方法としては主に次のようなものが挙げられます。
信用情報機関に開示請求をして確認する
銀行やクレジットカード会社など、金融機関からお金を借りている人の情報は、信用情報機関に開示請求をすれば分かります。
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知人などの個人から借金をしている場合は把握できませんが、お金の借入れは金融機関から行うことが多く、相続が起きて借金の存在が疑われるケースでは、信用情報機関への照会は欠かせません。
なお、相続人が故人の情報を開示請求する場合、相続人であることの証拠資料などが必要となるため、手続きには一定の期間がかかります。
そのため、開示請求を行うときは、早めに手続きを行わなければなりません。
カード会社や消費者金融からの通知物を確認する
故人の自宅や部屋の整理をするとき、返済の督促状などが届いていないか、カード会社や消費者金融からの通知物を確認することも大切です。
金銭の貸借契約書が見つかって、借金の金額が明確に分かる場合もあります。
抵当権の設定状況を確認する
借金をするときに抵当権や質権を設定することがあります。
わかりやすくいうと、自宅などの不動産が借金の担保となっているケースです。
そのため、故人名義の不動産の登記事項証明書を取り寄せ、抵当権などが設定されていないか確認する必要があります。
預金口座から定期的な引落がないか確認する
ローンは、毎月口座引落の形で返済することが一般的です。
そのため、預金通帳を確認して過去の引落状況をチェックすれば、ローンがあることやどこから借入をしているのか分かる場合があります。
ポイント②:財産と借金のどちらが多いかを確認する
債務額の把握も含めて、現金や不動産などの財産と借金のような負の遺産の両方が確認できたら、どちらが多いかをチェックします。
借金を相続すると、当然返済をしなければいけませんので、借金のほうが多いのであれば、相続放棄をするのも選択肢の1つとなるでしょう。
ただし、相続放棄を行うと、現金や不動産などの財産も相続できなくなります。
先祖代々から引き継いだ土地など、大切な財産でどうしても相続したいものがある場合には、相続放棄を行うのが本当に良いのか、しっかりと考えましょう。
なお、財産の金額を限度として借金を受け継ぐ「限定承認」という選択肢もあります。ただし、手続きがむずかしく、また、相続人全員による同意がないと限定承認ができないなどの制約があるため、実際にはあまり使われない方法です。
活用を検討する際は、弁護士や司法書士などの専門家に相談をしましょう。
ポイント③:限定承認または相続放棄を行えるのは3か月以内
限定承認または相続放棄を行えるのは、「相続が開始したことを知ったときから3か月以内」です。
この期限を過ぎると、限定承認や相続放棄は基本的にできません。
そのため、3か月の期限に間に合うように財産調査などを進めることが大切です。
借金が疑われる場合には、少なくとも期限の1か月前、つまり相続が開始してから2か月以内には弁護士や司法書士などの専門家に相談することをお勧めします。
遺産の種類が多い場合には、様々な書類の確認が必要になり、財産調査に時間がかかります。
一般的な相続手続きの流れについては、「遺産相続手続きの流れ:相続税に強い税理士が解説」の記事をご覧ください。
相続は一生に何度も経験することではありませんので、皆が不慣れな手続きです。家族仲を保ったまま、すべての手続きを終えるためには早めに専門家に相談することをお勧めします。
相続放棄を行うときの手続きの流れ
相続放棄の手続きは、「亡くなった方(被相続人)の、最後の住所地を管理する家庭裁判所」に対して行います。おおまかな手順は次の通りです。
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ただ、初めて相続放棄をする方にとっては、申述書をどう書いたら良いのか、何の書類を添付するのか、戸惑うことでしょう。
だれが相続放棄を行うかによっても添付すべき書類が変わるため、実際に手続きを行うときは、相続に強い司法書士や弁護士に相談を行いましょう。
相続放棄に関する注意点
相続放棄には、メリットだけでなくデメリットや注意すべき点もあります。
まず、相続放棄を行うと、借金だけでなく、不動産などの財産も含め、すべての遺産の相続権を失います。したがって、土地や建物など受け継ぎたい財産があっても相続することができません。
また、遺産を処分する行為(遺産の売却・預金の引出し・ローンの返済など)をすると、相続放棄はせずに遺産を相続することを認めた(単純承認した)ことになる可能性があるので注意が必要です。
相続放棄の手続き期限である3か月以内であっても、このような行為をすると相続放棄ができなくなってしまいます。
また、もともとご自身が相続人ではないケースであっても、相続放棄を行う方がいた場合、相続権が回ってくるケースがあります。他の相続人が相続放棄をしたために、ローンも含めた遺産の相続権が自分に回ってこないかどうかにも注意しましょう。
他の相続人が、相続放棄を行っているかは家庭裁判所で確認できますが、もし、自身が相続放棄を行うのであれば、次に相続人となる方に連絡を行わないと争いが起きかねません。
相続放棄を検討する際は、相続に詳しい司法書士や弁護士等の専門家に必ず相談しましょう。
ローンがあるとき、相続税の支払いはどうなるのか
相続税の課税対象になる正味の遺産額とは
相続税は、現金や不動産などの財産が、借金のような負の遺産などを差し引いた「正味の遺産額」が一定金額を超える場合にかかります。
※具体的な金額は相続人が何人いるか等によって異なりますが、詳しくは「相続税はいくらからかかる?いくらまで無税?相続税の目安を税理士が解説」の記事でご確認ください。
なお、正味の遺産額は、以下の財産や債務の金額を考慮して金額を求めます。
【正味の遺産額に加えるもの】
【正味の遺産額から差し引くもの】
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死亡時点で故人が所有していた現金や不動産などの財産は、墓石など非課税になる一部の例外を除き、すべてに対して相続税がかかります。
また、死亡保険金や死亡退職金、相続や遺言書によって遺産を受け継いだ人が3年以内に贈与された財産も、相続税の課税対象となります。
そして、相続時精算課税制度(生前に財産を贈与しても一定額までは贈与税がかからず、代わりにその財産の金額を相続税の計算に含める制度)を利用したときは、当制度の対象になる財産の価額も加えます。
※相続時精算課税制度については、「相続時精算課税制度とは?活用事例を相続税に強い税理士が徹底解説」の記事で詳しく解説しています。
このように、亡くなった方が持っていた財産や、生前に行った贈与などを足した財産額に対して相続税がかかります。
その一方で、ローンなどの借金や税金などの未払いのお金、葬式にかかった費用がある場合には、これらの金額を財産額から引いた金額に対して相続税がかかります。これは、相続税の「債務控除」などと呼ばれる制度です。
つまり、遺産額を超えるローンがあっても、基本的には相続税の支払いは生じず、借金の返済と相続税の支払いのダブルパンチにはならないということです。
相続税の債務控除の対象になるローン
ローンには様々な種類がありますが、カードローンや自動車ローンなど、多くのローンは相続税の債務控除の対象になります。
一方で、ローンを支払っている人が亡くなると保険で借金が補填されるケースや、死亡時点で確実にあったと認められないものは、控除対象になりません。
たとえば、以下に掲げるものは債務控除の対象外となり、相続税の計算から差し引けません。
団信で補填される住宅ローンは対象外
住宅ローンを利用するときは、通常、団信(団体信用生命保険)の加入が求められます。
団信に加入している場合、ローンの返済者が亡くなると、残っているローンは保険会社が代わりに支払います。その場合、相続人が相続するローン残高がなくなるため、団信で補填される住宅ローンは債務控除の対象外になると考えられます。
なお、住宅ローンを組むときに、団信に加入していないケースも一部に見られます。その場合、保険で補填されずにローンが残るのであれば、債務控除の対象です。
保証債務や連帯債務には注意が必要
他人の借金の連帯保証人や保証人となっていた人が亡くなり、連帯債務や保証債務があるときは、債務控除の対象になるか判断がむずかしいです。
まず、相続が起きると、連帯保証人や保証人の地位も相続の対象になり、相続人が保証債務や連帯債務を引き継ぎます。
そのため、(相続放棄をすれば別ですが)相続人は他人のローンの支払いを求められる可能性があります。
しかし、このような連帯債務や保証債務は、通常、債務控除の対象になりません。
なぜなら、債務控除の対象になるのは「確実と認められる債務」と相続税法で決められており、つまり、確実に支払わなければならない借金が債務控除の対象になるからです。支払い請求を受ける可能性レベルである連帯債務や保証債務は、一般的に債務控除の対象になりません。
ただし、連帯債務者として負担すべき金額が明確な場合や保証債務の主たる債務者に支払不能に陥っているときは、債務控除の対象になる可能性があります。
何が債務控除の対象になるのかは簡単に把握できませんので、借金などがある場合には、司法書士や弁護士に加え、相続税に詳しい税理士に相談して確認を行いましょう。
相続税に関する注意点
相続税は、亡くなった方から引き継いだお金や不動産などに対してかかりますが、これは、現金で一括納付をしなければなりません。ただし、引き継いだ財産が不動産ばかりのときや、借金の返済が必要な場合には、現金が不足して税金を支払えなくなるケースに陥ることも少なくありません。
従って、ローンがある場合には、状況整理や相続税の支払いを考慮して、司法書士や税理士と相続税対策を行うことをお勧めします。
この記事のまとめ
亡くなった方から引き継ぐ借金が財産より多いときは、相続放棄の検討を行います。借金の返済と相続税の支払いのダブルパンチにはなりませんが、3か月という短い期限がありますので、借金が疑われる場合には、早めに弁護士や司法書士などの専門家に相談しましょう。
また、借金が少なかったとしても、引き継いだ財産に現金がほとんどない場合は相続税の支払いに困窮することも少なくありませんので、税理士に相談することをお勧めします。
なお、相続税の支払いに困る場合は、「相続税を払えない場合の4つの対処方法を相続税に詳しい税理士が解説」の記事をご覧ください。
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一般社団法人 全国第三者承継推進協会 理事
ブラッシュメーカー株式会社 代表取締役
ブラッシュメーカー会計事務所 代表・税理士
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士業など専門家1,500人以上が協会員として所属する団体の理事に就任している。税理士法人古田土会計、国内最大手の税理士法人であるデロイトトーマツ税理士法人を経てブラッシュメーカー会計事務所を創業。 現在は、相続税の分野に力を入れて活動をしている。依頼者の相続が円滑に完了するためのサポートを行うことを、仕事の基本としている。
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