【税制改正速報】令和3年度税制改正大綱
2020年12月、令和3年度税制改正大綱が公表されました。
以下に、令和3年度税制改正の基本的考え方をまとめましたので、ご確認ください(原文は、自由民主党 政策 令和3年度税制改正大綱をご覧ください)。
なお、令和3年度税制改正大綱の具体的内容については、以下をご覧ください。
【税制改正速報】令和3年度税制改正大綱 個人所得課税
【税制改正速報】令和3年度税制改正大綱 資産課税
【税制改正速報】令和3年度税制改正大綱 法人課税
【税制改正速報】令和3年度税制改正大綱 消費課税
【税制改正速報】令和3年度税制改正大綱 国際課税
【税制改正速報】令和3年度税制改正大綱 東日本大震災からの復興支援のための税制
【税制改正速報】令和3年度税制改正大綱 納税環境整備
【税制改正速報】令和3年度税制改正大綱 関税
【税制改正速報】令和3年度税制改正大綱 検討事項
令和3年度税制改正の基本的考え方
わが国は、本年1月に最初の感染者が確認されて以降、新型コロナウイルス感染症(以下、「感染症」という。)の感染拡大と戦後最大の経済の落ち込みに直面した。
このような状況の中、感染症等の影響により厳しい状況に置かれている納税者に対し、緊急に必要な税制上の措置を講ずるために、年末における通常の年度改正から切り離して、本年4月に「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置」(令和2年4月6日)を決定したところである。
足元、感染症の爆発的な感染拡大の防止に注力するとともに、これと社会経済活動との両立を図っていく必要がある。
これまで、政府は一貫して経済の再生に取り組み、人口減少の中で、8年前の政権交代以来、新たに働く人を400万人増やすとともに、下落し続けていた地方の公示地価が昨年、27年ぶりに上昇に転じるなど、感染症拡大前においては、バブル崩壊後、最高の経済状態を実現していた。
政府・与党一丸となって、ウィズコロナ・ポストコロナの新しい社会をつくり、改めてデフレ脱却と経済再生を確かなものとしていく必要がある。
今回の感染症では、わが国における行政サービスや民間分野のデジタル化の遅れなど、様々な課題が浮き彫りになった。
菅内閣においては、各省庁や自治体の縦割りを打破し、行政のデジタル化を進め、今後5年で自治体のシステムの統一・標準化を行うこととしており、こうした改革にあわせ、税制においても、国民の利便性や生産性向上の観点から、わが国社会のデジタルトランスフォーメーション(DX)の取組みを強力に推進することとする。
菅内閣は、成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げ、グリーン社会実現のため、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、「2050年カーボンニュートラル」の実現を目指すこととしており、税制面においても必要な支援をしていくこととする。
持続可能で活力ある地方を創るためには、その基盤となる地方税の充実確保を図るとともに、税源の偏在性が小さく税収が安定的な地方税体系を構築することが必要である。
地方公共団体が地域における感染症対策の主体であることや、産業や企業をめぐる環境が激変している状況を踏まえ、固定資産税における評価替えへの対応を含め、地方税制について所要の措置を講ずる。また、被災地の復旧・復興、各地域における魅力の向上、地域社会の安全・安心の確保等の課題に対応するため、所要の措置を講ずる。
引き続き働き方の多様化を含む経済社会の構造変化への対応や所得再分配機能の回復の観点からの個人所得課税の検討を進める。
企業年金・個人年金等に関する税制上の取扱いについて、働き方によって有利・不利が生じない公平な税制の構築に取り組む。昨今のクラウド会計ソフトの普及等も踏まえた、適正な記帳の確保に向けた方策を検討していく。
子育て支援の観点から、国や地方自治体が実施する子育てに係る助成等について所要の措置を講ずる。
持続的な経済成長には、日本企業の健全な海外展開の促進とその果実の国内への還流という好循環も重要である。
公平な競争条件を確保し、課税逃れに効果的に対応する国際課税制度はそのための重要なインフラであり、わが国は「BEPS(注)プロジェクト」においてこれまで主導的役割を果たしてきた。
デジタル化を含む経済実態の変化に対し、各国がそれぞれ独自に対応していては企業にとって不確実性が増し、経済活動に負の影響を及ぼすことから、国際的な合意に基づく公平なルール作りが重要である。
現在OECDを中心に議論が進められているが、わが国は引き続きこの国際的な議論を積極的にリードし、国際合意に則った制度の見直しを進める。
(注)BaseErosionandProfitShifting:税源浸食と利益移転
経済再生なくして財政健全化なしとの方針の下、引き続き歳出・歳入両面の改革の取組みを続ける。また、税制は経済社会のあり方に密接に関連するものであり、今後とも、格差の固定化につながらないよう機会の平等や世代間・世代内の公平の実現、簡素な制度の構築といった考え方の下、検討を進める。
以下、令和3年度税制改正の主要項目及び今後の税制改正に当たっての基本的考え方を述べる。
1.ウィズコロナ・ポストコロナの経済再生
(1)産業競争力の強化に係る措置
①企業のDXを促進する措置等の創設
ウィズコロナ・ポストコロナの新たな日常に対応した事業再構築を早急に進めていくためには、デジタル技術を活用した企業変革(DX)が重要であるが、これを企業ごとのレガシーシステムの温存・拡大につながらない形で進める必要がある。
具体的には、新商品開発や新生産方式・販売方式の導入により新需要開拓や生産性向上に全社を挙げて取り組む企業が提出する「事業適応計画」(仮称)を認定する仕組みが産業競争力強化法で創設されることを受け、本計画により取得されるクラウド型システムを対象とする税制措置を創設することで、「つながる」デジタル環境の構築を促進し、レガシーシステムからの脱却を図る。
また、「2050年カーボンニュートラル」という目標に向け、企業の投資を促進する税制を創設する。(後掲)
②活発な研究開発を維持するための研究開発税制の見直し
イノベーションの強化など生産性の向上により、潜在成長率を高めていくことは引き続き重要であり、コロナ禍において様々な変化が生じている中で国際競争力を失わないためには、企業の研究開発投資を持続・拡大させることがますます求められる。
このため、研究開発投資を増額していくインセンティブが維持されるように、コロナ禍により売上が一定程度減少したにもかかわらず、研究開発投資を増加させた企業については、控除上限を法人税額の25%から30%に引き上げるとともに、次期科学技術基本計画を見据え、控除率カーブの見直し及び控除率の下限の引下げを行う。また、経済のデジタル化の中で企業のビジネスモデル変革を促すため、本税制の対象費用の定義についても見直しを行う。(後掲)
本税制の対象費用の範囲については、国際的な基準も踏まえながら引き続き見直しを行っていく。さらに、引き続き質の高い研究開発を推進していく観点から、オープンイノベーション型の対象範囲を拡大することによって産学官連携の更なる活性化を図るとともに、運用改善策も講じ、制度の積極的な活用を促す。
③コロナ禍を踏まえた賃上げ及び投資の促進に係る税制の見直し
労働者を取り巻く環境が大きく変化する中で、企業が新しい社会へ適応していくためには、事業や構造を変革する新たな人材の獲得及び人材育成の強化が重要である。また、企業の採用状況が悪化する中で第二の就職氷河期を作らないことも重要である。
このため、大企業向けの賃上げ及び投資の促進に係る税制の要件を見直し、新規雇用者の給与等支給額及び教育訓練費の増加に着目した税制とする。
④繰越欠損金の控除上限の特例
わが国の経済成長力を維持していくためには、厳しい経営環境の中でも企業が果敢に投資を行い、事業再構築・再編に取り組んでいくことが強く求められる。
現行の繰越欠損金の控除上限は成長志向の法人税改革の中で引き下げられてきたものであるが、今般、コロナ禍による欠損金については、一定期間に限り、DXやカーボンニュートラル等、事業再構築・再編に係る投資に応じた範囲において、最大100%までの控除を可能とする措置を、未曽有の事態を踏まえた臨時異例のものとして講ずることとする。
(2)株式対価M&Aを促進するための措置の創設
企業間の国際競争が激化する中、産業構造の変革を更に推進するため、事業ポートフォリオの見直しなど、企業価値向上のための事業再編が重要な課題である。
このため、企業の機動的な事業再構築を促し、競争力の維持・強化を図る観点から、自社株式を対価として、対象会社株主から対象会社株式を取得するM&Aについて、対象会社株主の譲渡損益に対する課税の繰延措置を講ずる。
その際、自社株式にあわせて金銭等を交付するいわゆる混合対価を一定程度認めるとともに、期限の定めのない措置とする。
(3)国際金融都市に向けた税制上の措置
わが国の国際金融センターとしての地位の確立に向けて、海外から事業者や人材、資金を呼び込む観点から、諸課題の解決を図る一環として、以下の税制上の措置を講ずる。
①法人課税
投資運用業を主業とする非上場の非同族会社等の役員に対する業績連動給与については、投資家等のステークホルダーの監視下に置かれているという特殊性に鑑み、その算定方式や算定の根拠となる業績等を金融庁ホームページ等に公表すること等を要件として、損金算入を可能とする。
②相続税
高度外国人材の日本での就労等を促進する観点から、就労等のために日本に居住する外国人に係る相続等については、その居住期間にかかわらず、国外に居住する外国人や日本に短期的に滞在する外国人が相続人等として取得する国外財産を相続税等の課税対象としないこととする。
③個人所得課税
ファンドマネージャーが、出資持分を有するファンド(株式譲渡等を事業内容とする組合)からその出資割合を超えて受け取る組合利益の分配(キャリード・インタレスト)について、分配割合が経済的合理性を有するなど一定の場合には、役務提供の対価として総合課税の対象となるのではなく、株式譲渡益等として分離課税の対象となることの明確化等を行う。
その際、ファンドマネージャーによる申告の利便性・適正性を確保するため、金融庁において所要の対応を講ずる。
(4)固定資産税
固定資産税は、市町村財政を支える基幹税であり、ウィズコロナ・ポストコロナにおいても、その税収の安定的な確保が不可欠である。
また、固定資産税は、固定資産の保有と市町村の行政サービスとの間に存する受益関係に着目した財産税であり、課税標準は適正な時価とされ、地方税法の規定により、3年ごとに評価替えが実施されている。
宅地等については、1年前の地価公示価格の7割を目途としつつ、基準年度及び据置年度の下落修正措置も講じられ、地価の動向を評価額に反映させる形で行われてきた。
商業地等については、平成9年度から負担水準の均衡化を進めてきた結果、令和2年度の負担水準は、据置特例の対象となる60%から70%までの範囲(据置ゾーン)内にほぼ収斂するに至っている。
近年、大都市を中心に地価が上昇する一方、地方において地価が下落していることを受け、負担水準が据置ゾーン外となる土地が数多く生ずると見込まれており、そうした土地の負担水準を据置ゾーン内に再び収斂させることに取り組むべきである。
現下の商業地の地価の状況を見ると、感染症の影響により、令和2年7月時点では三大都市圏や地方圏の一部では上昇が続いている一方で、全国では5年ぶりに下落に転じた。
このような状況を踏まえ、負担調整措置については、納税者の予見可能性に配慮するとともに固定資産税の安定的な確保を図るため、令和3年度から令和5年度までの間、下落修正措置を含め土地に係る固定資産税の負担調整の仕組みと地方公共団体の条例による減額制度を継続する。
その上で、感染症により社会経済活動や国民生活全般を取り巻く状況が大きく変化したことを踏まえ、納税者の負担感に配慮する観点から、令和3年度に限り、負担調整措置等により税額が増加する土地について前年度の税額に据え置く特別な措置を講ずる。
今後の固定資産税制度については、据置特例が存在することで、据置ゾーン内における負担水準の不均衡が解消されないという課題があり、負担の公平性の観点からは更なる均衡化に向けた取組みが求められる。
これらを踏まえ、税負担の公平性や市町村の基幹税である固定資産税の充実確保の観点から、負担調整措置のあり方について引き続き検討を行う。
(5)自動車税及び軽自動車税の環境性能割の臨時的軽減
環境性能割の臨時的軽減は、消費税率10%への引上げにあわせた需要変動の平準化に向けた取組みとして、令和元年10月1日から令和2年9月30日までの間に自家用乗用車(登録車及び軽自動車)を取得した場合、税率を1%分軽減する措置として創設されたものである。
その後、新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置として、令和3年3月31日までの半年間延長されている。
感染症の状況や経済の動向、臨時的軽減が環境インセンティブ機能に与える影響等を総合的に勘案し、この特例措置について、適用期限を9月延長し、令和3年12月31日までに取得したものを対象とする。
なお、この措置による地方税の減収については、全額国費で補塡する。
(6)住宅ローン控除等
新型コロナウイルスの影響による先行きの不透明さなどを背景に、消費者においても住宅取得環境が厳しさを増している。
内需の柱となる住宅投資を幅広い購買層に対して喚起するために、消費税率10%への引上げに伴う反動減対策の上乗せとして措置した控除期間13年間の特例について延長し、一定の期間(新築の場合は令和2年10月から令和3年9月末まで、それ以外は令和2年12月から令和3年11月末まで)に契約した場合、令和4年末までの入居者を対象とする。
また、経済対策として、この延長した部分に限り、合計所得金額1,000万円以下の者については床面積40㎡から50㎡までの住宅も対象とする特例措置を講ずる。
所得税額から控除しきれない額は、現行制度と同じ控除限度額の範囲内で個人住民税額から控除する。この措置による個人住民税の減収額は、全額国費で補塡する。
また、所得税に加え個人住民税による今回の住宅ローン控除に係る措置の対象のうち、この措置を講じてもなお効果が限定的な所得層に対しては、別途、適切な給付措置を引き続き講ずる。
なお、平成30年度決算検査報告において、住宅ローン控除の控除率(1%)を下回る借入金利で住宅ローンを借り入れているケースが多く、その場合、毎年の住宅ローン控除額が住宅ローン支払利息額を上回っていること、適用実態等からみて国民の納得できる必要最小限のものになっているかなどの検討が望まれること等の指摘がなされている。
消費税率8%への引上げ時に反動減対策として拡充した措置の適用期限後の取扱いの検討に当たっては、こうした会計検査院の指摘を踏まえ、住宅ローン年末残高の1%を控除する仕組みについて、1%を上限に支払利息額を考慮して控除額を設定するなど、控除額や控除率のあり方を令和4年度税制改正において見直すものとする。
また、住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置について、令和3年4月1日から同年12月31日までの間に住宅用家屋の取得等に係る契約を締結した場合に適用される非課税限度額を、令和3年3月31日までの非課税限度額と同額まで引き上げる。
併せて、床面積要件について、住宅ローン控除と同様の措置を講ずる。
(7)その他考慮すべき課題
租税特別措置については、特定の政策目的を実現するために有効な政策手法となりうる一方で、税負担の歪みを生じさせる面があることから、真に必要なものに限定していくことが重要である。
このため、毎年度、期限が到来するものを中心に、各措置の利用状況等を踏まえつつ、必要性や政策効果をよく見極めた上で、廃止を含めてゼロベースで見直しを行う。
また、租税特別措置の創設・拡充を行う場合は、財源を確保することやいたずらに全体の項目数を増加させないことに配意する。
住宅市場に係る対策については、住宅投資の波及効果に鑑み、これまでの措置の実施状況や今後の住宅市場の動向等を踏まえ、必要な対応を検討する。
2.デジタル社会の実現
(1)民間におけるデジタル化の促進
①企業のDXを促進する措置の創設
経済の持続的成長のためには、DXによる企業変革が重要となっていることを踏まえ、新規ビジネスの構築等に関する計画に基づく、接続性・クラウドの利用・レガシーシステムからの脱却・サイバーセキュリティーといった点が確保された事業変革デジタル投資を促進する税制を創設する。
②研究開発税制の見直し
企業のDXを促進する観点からは、ソフトウェア分野における研究開発を支援することも重要であるため、研究開発税制において、クラウド環境で提供するソフトウェアなどの自社利用ソフトウェアの普及が拡大していることも踏まえ、自社利用ソフトウェアの取得価額を構成する試験研究に要した費用について、本税制の対象に追加する。
(2)納税環境のデジタル化
①税務関係書類における押印義務の見直し
国・地方公共団体を通じたデジタル・ガバメントの推進による行政手続コストの削減や、感染症の感染拡大により、あらわになった課題への対応といった観点から、税務手続の負担軽減のため、税務署長等に提出する国税関係書類のうち納税者等の押印を求めているものについては、現行において実印による押印や印鑑証明書の添付を求めているもの等を除き、押印義務を廃止する。
また、地方公共団体の長に提出する地方税関係書類についても、国税と同様、押印義務を廃止する。
②電子帳簿等保存制度の見直し等
経済社会のデジタル化を踏まえ、経理の電子化による生産性の向上、テレワークの推進、クラウド会計ソフト等の活用による記帳水準の向上に資するため、国税関係帳簿書類を電子的に保存する際の手続きを抜本的に見直す。
具体的には、事前承認制度を廃止するほか、現行の厳格な要件を充足する事後検証可能性の高い電子帳簿については、信頼性確保の観点から優良な電子帳簿としてその普及を促進するための措置を講ずるとともに、その他の電子的な帳簿についても、正規の簿記の原則に従うなど一定の要件を満たす場合には電子帳簿として電子データのまま保存することを当面可能とする。
また、紙の領収書等の原本に代えてスキャナ画像を保存することができる制度(スキャナ保存制度)については、ペーパーレス化を一層促進する観点から、手続・要件を大幅に緩和するとともに、電子データの改ざん等の不正行為を抑止するための担保措置を講ずる。
地方税においては、地方たばこ税及び軽油引取税に係る書類等の電子的保存を可能とするとともに、地方税関係帳簿書類の電子的保存の要件等について、国税と同様、所要の措置を講ずる。
デジタル化やキャッシュレス化に対応した税制のあり方や納付方法の多様化についても引き続き検討していく。
③地方税務手続のデジタル化の推進
感染症の拡大を踏まえ、従来に増して迅速に地方税務手続のデジタル化を進めていく必要があることから、地方税共通納税システムの対象税目に固定資産税、自動車税種別割等を追加し、これらの納付を電子的に行うことができるよう、所要の措置を講ずる。
また、給与所得に係る特別徴収税額通知(納税義務者用)について、特別徴収義務者に対して電子的に送付する仕組みを導入する。
これらの取組みを着実に実施した上で、引き続き、納税側・課税側双方のニーズを踏まえ、地方税務手続のデジタル化を推進する。
3.グリーン社会の実現
(1)カーボンニュートラルに向けた税制措置の創設
気候変動問題については、経済社会システムの変革を通じて環境・エネルギー上の諸課題に対応し、環境と成長の好循環を実現することが重要である。
「2050年カーボンニュートラル」という高い目標に向けて、産業競争力強化法において規定される予定の「中長期環境適応計画」(仮称)に基づき導入される、生産プロセスの脱炭素化に寄与する設備や、脱炭素化を加速する製品を早期に市場投入することでわが国事業者による新たな需要の開拓に寄与することが見込まれる製品を生産する設備に対して、税制上強力に支援する措置を創設する。
(2)車体課税
自動車業界はCASEに代表される100年に一度ともいわれる大変革に直面している。
世界的な脱炭素の動きを受けた電気自動車の急速な普及、内燃機関自動車に対する規制の強化、ネットワークに接続した自動車を中心とする自動運転技術の飛躍的向上などの動きに代表されるこの大変革に対応できるか否かは単に一産業の問題ではなく、日本の経済・雇用を大きく左右しかねない極めて重要な課題であり、官民が総力を結集し危機感をもって対応していく必要がある。
税制についても、こうした変革に向けた自動車業界の対応や環境整備に貢献するものでなくてはならない。本来は車体課税についても変革に対応した見直しを早急に行うべきであるが、他方でわが国経済がコロナ禍にあることを踏まえれば、急激な変化は望ましくない。今回の見直しにおいては、次のエコカー減税等の期限到来時に抜本的な見直しを行うことを前提に、一定の猶予期間を設けることとする。関係省庁及び自動車業界には、この期間内に上記の大変革に対応する準備を早急に整えていくことを望みたい。
自動車重量税のエコカー減税については、全体として自動車ユーザーの負担が増えないように配慮しつつ、燃費性能がより優れた自動車の普及を促進する観点から、目標年度が到来した令和2年度燃費基準を達成していることを条件に、令和12年度燃費基準の達成度に応じて減免する仕組みに切り替える。その際、2回目車検時の免税対象について電気自動車等やこれらと同等の燃費性能を有するハイブリッド車等に重点化を図る。
自動車税及び軽自動車税の環境性能割については、燃費性能に応じた税率区分を設定し、その区分を2年ごとに見直すことにより燃費性能がより優れた自動車の普及を促進するものであり、令和2年度末が見直しの時期に当たることから、目標年度が到来した令和2年度燃費基準の達成状況も考慮しながら、令和12年度燃費基準の下で税率区分を見直す。
クリーンディーゼル車については、燃費基準の達成状況や普及の状況等を総合的に勘案し、エコカー減税及び環境性能割においてはガソリン車と同等に扱うこととする。その際、クリーンディーゼル車の取扱いが大きく変化することから、市場への配慮等の観点も踏まえ、令和3年度及び令和4年度に関しては激変緩和措置を講ずることとし、令和5年度以降はガソリン車と同等に取り扱うこととする。
自動車税及び軽自動車税の種別割のグリーン化特例(軽課)については、環境性能割を補完する制度であることを踏まえ、クリーンディーゼル車を対象から除くとともに、適用対象を電気自動車等に限定していない種別においても、重点化及び基準の切り替えを行った上で2年間延長する。また、次の期限到来に向けて、経済の状況などを考慮しつつ、更なる重点化を引き続き検討する。
今後、エコカー減税等の期限到来にあわせ、見直しを行うに当たっては、政策インセンティブ機能の強化、実質的な税収中立の確保、原因者負担・受益者負担としての性格、市場への配慮等の観点を踏まえることとする。また、次のエコカー減税等の期限到来に向けて、新たに燃費基準の対象となった電気自動車及びプラグインハイブリッド車について、令和12年度燃費基準に基づく燃費値の表示に関する検討等を進めつつ、その結果も踏まえ、エコカー減税等における燃費基準の達成度に応じた評価について検討し、結論を得る。
環境性能割の臨時的軽減については、感染症の状況や経済の動向、臨時的軽減が環境インセンティブ機能に与える影響等を総合的に勘案して、適用期限を9月延長し、令和3年12月31日までに取得したものを対象とする。なお、この措置による地方税の減収については、全額国費で補塡する。〔再掲〕
(3)経済と環境の好循環の実現
気候変動問題などの地球規模の課題が顕在化している。
IPCCによれば、極端な気象現象の増加や人の健康・生態系へのリスクは、工業化以降の平均気温の上昇が1.5℃の場合において増加し、2℃においては更に増加すると予測されている。持続可能な開発目標(SDGs)を踏まえ、持続可能な社会を構築するためにも、パリ協定に基づき、脱炭素化に向けた取組みを加速することが重要である。
わが国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち「2050年カーボンニュートラル」、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言し、経済と環境の好循環、グリーン社会の実現のため、幅広い施策を横断的に実施することとしている。
また、パリ協定に基づく2030年度の削減目標(2013年度比26%減の水準)を確実に達成することを目指し、この水準にとどまることなく、更なる削減努力を追求していくこととしている。
4.中小企業の支援、地方創生
(1)中小企業向け投資促進税制等の延長
①中小企業による積極的な設備投資等の支援
地域経済の中核を担う中小企業を取り巻く状況は、ますます厳しさを増しており、ポストコロナを見据えて、生産性の向上や経営基盤の強化を支援する必要がある。
このため、中小企業者等に係る軽減税率の特例、中小企業投資促進税制及び中小企業経営強化税制の適用期限を2年延長するとともに、商業・サービス業・農林水産業活性化税制について、対象業種を中小企業投資促進税制に統合する。
②地域社会における先進的な設備投資や災害に備える設備投資に対する支援
地域未来投資促進税制について、特に高い付加価値を創出し地域経済を牽引する事業を集中的に支援する観点から、従来の措置に数値要件を追加するとともに、サプライチェーンの維持・強化を目的とする類型を追加した上で2年延長する。
また、自然災害や感染症が事業活動の継続に与える影響を踏まえ、特定事業継続力強化設備等の特別償却制度について対象設備を見直した上で計画の認定期限を設定する等、頻発する災害に備えて対応力を強化するための取組みを進める。
(2)所得拡大促進税制の見直し
経済の好循環のためには、企業が生み出した付加価値の従業員給与への還元を促すことが引き続き必要である。
雇用の維持・確保への懸念がある中においては、特に中小企業全体として雇用を守りつつ、賃上げによる所得拡大を促すことが重要である。このため、賃上げだけでなく、雇用を増加させる企業を下支えする観点から、従来の
①雇用者給与等支給額が前年度を上回ること、
②継続雇用者給与等支給額の1.5%以上増加
という要件を雇用者給与等支給額が1.5%以上増加という要件に見直した上で2年延長する。
(3)中小企業の経営資源の集約化に資する税制の創設
中小企業の経営資源の集約化による事業の再構築などにより、生産性を向上させ、足腰を強くする仕組みを構築していくことが重要である。
このため、経営資源の集約化によって生産性向上等を目指す計画の認定を受けた中小企業が、中小企業の株式の取得後に簿外債務、偶発債務等が顕在化するリスクに備えるため、準備金を積み立てたときは、損金算入を認める措置を講ずる。
併せて、同計画に必要な事項を記載して認定を受けた中小企業は、新たな類型として中小企業経営強化税制の適用を可能とし、さらに、所得拡大促進税制の上乗せ要件に必要な計画の認定を不要とすることにより、M&A後の積極的な投資や雇用の確保を促すこととする。
(4)固定資産税等
固定資産税は、市町村財政を支える基幹税であり、ウィズコロナ・ポストコロナにおいても、その税収の安定的な確保が不可欠である。
納税者の予見可能性に配慮するとともに固定資産税の安定的な確保を図るため、負担調整措置については、令和3年度から令和5年度までの間、下落修正措置を含め土地に係る固定資産税の負担調整の仕組みと地方公共団体の条例による減額制度を継続した上で、感染症により社会経済活動や国民生活全般を取り巻く状況が大きく変化したことを踏まえ、納税者の負担感に配慮する観点から、令和3年度に限り、負担調整措置等により税額が増加する土地について前年度の税額に据え置く特別な措置を講ずる。〔再掲〕
また、住宅や土地の流動化を促進し、不動産の取引の活性化や有効利用を図るため、住宅及び土地の取得に係る不動産取得税の税率の特例措置等の適用期限を延長する。
(5)地域の活性化、地域社会の安全・安心の向上
①地域における移動の利便性向上
公共交通機関の混雑緩和や地域における移動の利便性向上に資するシェアサイクルの普及を促進する観点から、市町村が策定する計画に基づき設置されたシェアサイクルポートに対する固定資産税の特例措置を創設する。
②地方の生活を支える自動車の安全性能の向上等
自動車は地方における生活の基盤として不可欠のものであり、高齢化が急速に進行する中、その安全性の向上やバリアフリー化の推進は重要である。
こうした観点から、先進安全技術を搭載したトラック・バスに係る自動車税環境性能割及び自動車重量税の特例措置について、一定の装置を対象に追加した上で、適用期限を延長する。また、バリアフリー対応車両に係る特例措置についても、リフト付きバスの普及を促進する観点から、一定の車両について環境性能割の控除額を拡充した上で、適用期限を延長する。
③災害に対するきめ細やかな対応
被災からの復旧・復興や防災・減災に関する取組みを一層推進していく必要がある。このため、東日本大震災、熊本地震及び平成30年7月豪雨の被災地域における被災代替住宅用地、被災代替償却資産等に係る固定資産税等の特例措置の適用期限を延長する。
また、既存ダムの有効貯水容量を洪水調節に最大限活用する対策を推進するための施策の一環として、利水ダムに整備される治水用の放流施設について、固定資産税の非課税措置を講ずる。
5.経済社会の構造変化を踏まえた税制の見直し
(1)経済社会の構造変化を踏まえた個人所得課税のあり方
①個人所得課税における諸控除の見直し
個人所得課税については、わが国の経済社会の構造変化を踏まえ、配偶者控除等の見直し、給与所得控除・公的年金等控除・基礎控除の一体的な見直しなどの取組みを進めてきている。今後も、これまでの税制改正大綱に示された方針や、令和2年分所得から適用となった改正の影響等も踏まえ、働き方の多様化を含む経済社会の構造変化への対応や所得再分配機能の回復の観点から、各種控除のあり方等を検討する。
②記帳水準の向上等
今般の感染症の感染拡大においては、中小・小規模事業者への給付金の支給や融資に際し、売上や資産・負債等の状況が適切に記録されていないため申請に手間取るなど、日々の適正な記帳の重要性が改めて浮き彫りになった。小規模事業者の半数以上が帳簿を手書きで作成しており、また、個人事業者の場合、正規の簿記の原則に従った記帳を行っている者は約3割にとどまっているのが現状である。
記帳水準の向上は、適正な税務申告の確保のみならず、経営状態を可視化し、経営の対応力を向上させる上でも重要である。近年、普及しつつあるクラウド会計ソフトを活用することにより、小規模事業者であっても大きな手間や費用をかけずに正規の簿記を行うことが可能な環境が整ってきていることも踏まえ、正規の簿記の普及を含め、個人事業者の記帳水準の向上等に向けた検討を行う。
③国や地方自治体の実施する子育てに係る助成等の非課税措置
保育を主とする国や自治体からの子育てに係る助成等について、学資金や、幼児教育・保育無償化により国から受ける補助については非課税とされていることなども踏まえ、子育て支援の観点から、非課税とする措置を講ずる。
④セルフメディケーション税制の見直し
少子高齢化社会の中では限りある医療資源を有効活用するとともに、国民の健康づくりを促進することが重要であり、国民が適切な健康管理の下、セルフメディケーション(自主服薬)に取り組む環境を整備することが、医療費の適正化にも資する。
こうした観点から、セルフメディケーション税制について、対象をより効果的なものに重点化した上で、5年の延長を行う。具体的には、いわゆるスイッチOTC成分の中でも効果の薄いものは対象外とする一方で、とりわけ効果があると考えられる薬効(3薬効程度)については、スイッチOTC成分以外の成分にも対象を拡充し、その具体的な内容等については専門的な知見も活用し決定する。
併せて、手続きの簡素化を図るとともに、本制度の効果検証を行うため、適切な指標を設定した上で評価を行い、次の適用期限の到来時にその評価を踏まえて制度の見直し等を含め、必要な措置を講ずる。
(2)私的年金等に関する公平な税制のあり方
働き方やライフコースが多様化する中で、老後の生活に備えるための支援について、働き方によって有利・不利が生じない公平な税制の構築が求められている。
こうした観点から、拠出段階の課税については、例えばイギリスやカナダにおける各種私的年金の共通の非課税拠出限度枠なども参考に、働き方によって税制上の取扱いに大きな違いが生じないような姿を目指し、議論を具体化していく段階にきている。また、給付段階の課税について、給付が一時金払いか年金払いかによって税制上の取扱いが異なり、給付のあり方に中立ではないこと、勤続期間が20年を超えると一年あたりの控除額が増加する仕組みが転職などの増加に対応していないといった指摘がある。
雇用の流動性や経済成長との整合性なども踏まえ、税制が老後の生活や資産形成を左右しない仕組みとするべく、諸外国の例も参考に給与・退職一時金・年金給付の間の税負担のバランスを踏まえた姿とする必要がある。
こうした課題については、拠出・運用・給付の各段階を通じた適正かつ公平な税負担を確保できる包括的な見直しを目指す必要があるが、これに対応するため、例えば従業員それぞれに私的年金等を管理する個人退職年金勘定を設けるといった議論がある。
拠出段階においては、私的年金共通の非課税拠出額を設定してこの勘定に拠出することで、働き方によって有利・不利が生じない仕組みとするとともに、給付段階においては、退職金からもこの勘定に非課税で拠出できるようにし、この勘定からの受給の際の課税を統一することにより課税の中立・公平を図ろうとするものである。こういった議論も参考にしながら、老後に係る税制について、あるべき方向性や全体像の共有を深めながら、具体的な案を精力的に検討する。その際には、私的年金や退職給付のあり方は、個人の生活設計にも密接に関係することなどを踏まえ、丁寧な検討を行っていくことが重要である。
令和3年度税制改正においては、こうした改革の一環として、私的年金の拠出限度額をより公平な算定方法に改善する等の私的年金の見直しが行われることを踏まえ、これらの拠出段階の課税についても、現行の税制上の措置を適用することとする。
なお、金融所得に対する課税のあり方について、家計の安定的な資産形成を支援する制度の普及状況や所得階層別の所得税負担率の状況も踏まえ、税負担の垂直的な公平性等を確保する観点から、関連する各種制度のあり方を含め、諸外国の制度や市場への影響も踏まえつつ、総合的に検討する。
(3)相続税・贈与税のあり方
①教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の見直し
教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置について、孫等が受贈者である場合に贈与者死亡時の残高に係る相続税額の2割加算が適用されないこと等が節税的な利用につながっているとの指摘を踏まえ、格差の固定化の防止等の観点から所要の見直しを行った上で、適用期限を2年延長する。
なお、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置については、贈与の多くが扶養義務者による生活費等の都度の贈与や基礎控除の適用により課税対象とならない水準にあること、利用件数が極めて少ないこと等を踏まえ、次の適用期限の到来時に、制度の廃止も含め、改めて検討する。
②資産移転の時期の選択に中立的な相続税・贈与税に向けた検討
高齢化等に伴い、高齢世代に資産が偏在するとともに、相続による資産の世代間移転の時期がより高齢期にシフトしており、結果として若年世代への資産移転が進みにくい状況にある。
高齢世代が保有する資産がより早いタイミングで若年世代に移転することになれば、その有効活用を通じた、経済の活性化が期待される。このため、資産の再分配機能の確保に留意しつつ、資産の早期の世代間移転を促進するための税制を構築することが重要な課題となっている。
わが国の贈与税は、相続税の累進回避を防止する観点から、高い税率が設定されており、生前贈与に対し抑制的に働いている面がある。一方で、現在の税率構造では、富裕層による財産の分割贈与を通じた負担回避を防止するには限界がある。
諸外国では、一定期間の贈与や相続を累積して課税すること等により、資産の移転のタイミング等にかかわらず、税負担が一定となり、同時に意図的な税負担の回避も防止されるような工夫が講じられている。
今後、こうした諸外国の制度を参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化の防止等に留意しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。
6.経済のデジタル化への国際課税上の対応
デジタル技術は経済活動の隅々まで浸透しつつあり、「経済のデジタル化」が急速に進展している。このような時代の変化に対し、モノを中心とした産業時代に形成された国際課税原則(「恒久的施設(PE:Permanent Establishment)なければ課税なし」等)が適切に機能しないといった問題が顕在化している。
また、経済のグローバル化・デジタル化の進展により、知的財産等の国境を越えた取引が拡大し、軽課税国への利益移転が容易となる中、各国が低い法人税率や優遇税制によって外国企業を誘致する動きが活発化しており、過度な法人税の引下げ競争に歯止めをかけることが急務となっている。
経済のデジタル化によって生じるこうした国際課税上の課題への対応については、2021年半ばまでに国際的な合意をまとめるべく、OECDを中心に議論が行われている。
経済のデジタル化に対する解決策は、わが国企業に過度な負担を課さないように配慮しつつ、企業間の公平な競争環境を整備し、わが国企業の国際競争力の維持及び向上につながるものでなければならない。また、税制の不確実性をもたらす一国主義的な課税措置の拡散を防止するためにも、国際的なコンセンサスに基づく解決策への合意は、喫緊の課題である。
わが国としては、令和2年度与党税制改正大綱で示した基本的考え方に沿って、OECDを中心とする国際的な議論に貢献し、国際的な合意に向けて、一層主導的な役割を果たしていくことが重要である。
また、国際的な租税回避や脱税への対応については、今後も引き続き、国際的な議論や租税回避の態様等を踏まえ必要な見直しを迅速に講じていく。併せて、国際課税制度が大きな変革を迎える中、国内法制・租税条約の整備及び着実な執行など適時に十全な対応ができるよう、国税当局の体制強化を行うものとする。
7.円滑・適正な納税のための環境整備
(1)国際化に対応した適正課税の確保
①納税管理人制度の拡充
クロスボーダー取引が活発化する中で、国内に何らの拠点を持たない外国法人や非居住者らによる経済活動が活発になる中、これらの者に対して税務調査等を行う場合には、国内に所在する納税管理人を通じた接触のほか、租税条約に基づいた情報交換要請等によって対応している。
しかしながら、当局側から接触の必要性があるにもかかわらず、納税者による納税管理人の選任が行われなかったとしても、現状では当局側に取りうる措置がないことから、このような場合についても効果的に税務調査等を行うため、納税管理人が適切に選任されることを確保する措置を講ずる。
②国際的徴収回避行為への対応
平成25年の税務行政執行共助条約の発効以降、わが国においても、租税条約に基づき各国税務当局間で互いに相手国の租税債権を徴収していこうとする、いわゆる徴収共助の枠組みが構築され、そのネットワークは着実に拡大しているところである。
この枠組みは引き続き活用しながら、その一方で、徴収共助の要請が可能な国に財産を所有する滞納者が行う徴収回避行為にも適切に対応し、適正かつ公平な課税・徴収を実現する観点から、滞納処分免脱罪及び第二次納税義務の適用対象について見直しを行う。
(2)消費税転嫁対策特別措置法の失効に係る対応
消費税転嫁対策特別措置法は、令和3年3月31日限りでその効力を失うこととなるが、期限内に行われる消費税の転嫁拒否等の行為に対する監視・取締りについては、その後も継続する。また、買いたたき等については、引き続き、独占禁止法、下請法等に基づき厳正に対処する。
さらに、事業者の総額表示について、円滑に再実施することができるよう、相談対応や周知・広報等を適切に行う。
(3)退職所得課税の適正化
退職所得課税における2分の1課税は、退職所得が長期にわたる勤務の結果生ずるものであり、勤務の対価の一部が蓄積して一挙に支払われるものであることに配慮した税負担の平準化措置であることに鑑み、法人役員等以外についても勤続年数5年以下の短期の退職金については、2分の1課税の平準化措置の適用から除外する。
ただし、雇用の流動化等に配慮し、退職所得控除額を除いた支払額300万円までは引き続き2分の1課税の平準化措置を適用する。
8.その他
(1)東日本大震災からの復興
東日本大震災から10年が経過しようとしているが、引き続き復興を支えていくため、「『復興・創生』後における東日本大震災からの復興の基本方針」(令和元年12月20日閣議決定)や復興の進捗状況等を踏まえながら、復興特区税制について、重点化された後の地域を対象として、機械装置等の特別償却・税額控除、被災雇用者等を雇用した場合の税額控除、開発研究用資産の特別償却等及び新規立地促進税制の適用期限を3年延長する。
福島特措法税制については、福島国際研究産業都市区域の15市町村を対象とした福島イノベーション・コースト構想の推進に係る特例(機械装置等の特別償却・税額控除、避難対象雇用者等を雇用した場合の税額控除等)や、特定風評被害による経営への影響に対処するための特定事業活動に係る特例(機械装置等の特別償却・税額控除及び福島県の被災雇用者等を雇用した場合の税額控除)を創設する。
また、被災代替資産等の特別償却制度等について、措置内容の見直しを行う。
(2)IRに関する税制
IRに関する税制については以下の方向で検討し、令和4年度以降の税制改正で具体化する。
①所得税
IR事業の国際競争力を確保する観点から、非居住者のカジノ所得について非課税とする。
なお、居住者のカジノ所得については、国内の公営ギャンブルと同様、課税とする。支払調書の提出は求めず、税務当局が国税通則法に基づく情報照会手続を活用すること等を通じ、自主的な適正申告の確保を図る。
②消費税
カジノに係る売上げが不課税となることを前提に、カジノに係る事業に対応する課税仕入れについて仕入税額控除制度の適用を制限する。
その際、消費税法上の他の制度と同様、カジノに係る事業の収入がIR事業全体の収入に比して少ない場合(5%以下)は、仕入税額控除制度の適用を可能とする。なお、カジノ以外の事業に対応する課税仕入れについては、仕入税額控除制度の適用を可能とする。
③法人税
カジノ行為関連景品類について、諸外国で実施されている不特定多数の者に対する広告宣伝のための割引等クーポンの提供は広告宣伝費に、賭金額等に応じ一定の基準に基づき行うキャッシュバックは売上割戻しに該当することなど、課税上の取扱いを明確化する。
(3)屋外分煙施設等の整備の促進
令和2年度与党税制改正大綱において、地方公共団体に対し屋外分煙施設等の整備を図るよう促したところであるが、引き続き、望まない受動喫煙対策の推進や今後の地方たばこ税の継続的かつ安定的な確保の観点から、地方たばこ税の活用を含め、地方公共団体が駅前・商店街などの公共の場所における屋外分煙施設等のより一層の整備を図るよう促すこととする。
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令和3年度税制改正大綱の具体的内容については、以下をご覧ください。
【税制改正速報】令和3年度税制改正大綱 個人所得課税
【税制改正速報】令和3年度税制改正大綱 資産課税
【税制改正速報】令和3年度税制改正大綱 法人課税
【税制改正速報】令和3年度税制改正大綱 消費課税
【税制改正速報】令和3年度税制改正大綱 国際課税
【税制改正速報】令和3年度税制改正大綱 東日本大震災からの復興支援のための税制
【税制改正速報】令和3年度税制改正大綱 納税環境整備
【税制改正速報】令和3年度税制改正大綱 関税
【税制改正速報】令和3年度税制改正大綱 検討事項
注意事項 ※1 本記事は2020年12月に公表された、与党税制改正大綱に基づき記載しております。 ※2 2020年12月現在、閣議決定されていないため、実際の改正内容と異なる場合があります。 ※3 本記事に記載された内容に従って行動された結果生じた損失について、弊社では一切の責任を負いかねます。
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