【税制改正速報】令和2年度税制改正大綱

2019年12月12日、令和2年度税制改正大綱が公表されました。

以下に、令和2年度税制改正の基本的考え方をまとめましたので、ご確認ください(原文は、自由民主党 政策 令和2年度税制改正大綱をご覧ください)。
なお、令和2年度税制改正大綱の具体的内容については、以下をご覧ください。

【税制改正速報】令和2年度税制改正大綱 個人所得課税
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【税制改正速報】令和2年度税制改正大綱 消費課税
【税制改正速報】令和2年度税制改正大綱 国際課税
【税制改正速報】令和2年度税制改正大綱 関税
【税制改正速報】令和2年度税制改正大綱 検討事項

令和2年度税制改正の基本的考え方

令和の時代において人口減少と少子高齢化が一層進む中にあっても、直面する様々な課題を克服し、豊かな日本を次の世代へと引き渡していかなければならない。このためには、社会保障をはじめとした諸制度を人生100年時代にふさわしいものへと転換するとともに、海外発の経済の下方リスクの顕在化には適切に備えつつ、Society5.0の実現に向けたイノベーションの促進など中長期的に成長していく基盤を構築することが必要である。

イノベーションを持続的・自律的に生み出していくためには、適切なコーポレートガバナンスの下、企業自身が、その保有する内部資金や技術を有効に活用することが求められ、税制においても、こうした企業の前向きな行動を後押ししていく必要がある。このため、起業が事業革新につながるオープンイノベーションを促進する観点から、次世代のイノベーションを担うベンチャー企業への出資に係る新たな税制措置を講ずる。また、次世代の最大の資源となる「データ」を様々な分野・地域において利活用できる環境整備に向け、5G情報通信インフラの普及促進に取り組む。

持続的な経済成長には、日本企業の健全な海外展開の促進とその果実の国内への還流という好循環も重要である。公平な競争条件を確保し、課税逃れに効果的に対応する国際課税制度はそのための重要なインフラであり、わが国は「BEPS(注)プロジェクト」においてこれまで主導的役割を果たしてきた。デジタル化を含む経済実態の変化に対し、各国がそれぞれ独自に対応していては企業にとって不確実性が増し、経済活動に負の影響を及ぼすことから、国際的な合意に基づく公平なルール作りが重要である。現在OECDを中心に議論が進められているが、わが国は引き続きこの国際的な議論を積極的にリードし、国際合意に則った制度の見直しを進める。

(注)Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転

人生100年時代を迎え、高齢期における就労の拡大や働き方の多様化に対応し、私的年金の加入可能年齢等の引き上げや、中小企業への企業年金の普及・拡大等に取り組む。成長資金の供給を促しつつ、家計の安定的な資産形成を促進する観点から、NISA制度全体を見直す中でつみたてNISAを延長し、少額からの積立・分散投資を促進していく。

地方創生を推進するとともに、人口減少の深刻化や急速な高齢化をはじめ経済社会構造の変化が進む中、各地方公共団体が安定的に地域のコミュニティを支える行政サービスを提供するためには、持続可能な地方税財政基盤を確立していくことが重要である。そのため、地方税の充実確保を図るとともに、税源の偏在性が小さく税収が安定的な地方税体系の構築を進める。

「好循環」の動きを地域に波及させ、地方創生を実現するためには、地域における熱意と意欲のある取組みを後押ししていく必要がある。地方へのひとや資金の流れを飛躍的に高める観点から地方拠点強化税制や企業版ふるさと納税を拡充するなど、税制面でも所要の措置を講ずる。

また、わが国の経済社会の変化や国際的な取組みの進展状況等を踏まえつつ、担税力に応じた新たな課税について検討を進めていく。

国民の利便性ひいては生産性の向上や国・地方間の連携も含めた行政の効率性を高めるために、申告・納税手続について、ICTを積極的に活用するとともに、簡素化・合理化を進める。納税者による自主的かつ適正な申告を確保するための環境の整備を図る。

安倍内閣は、これまで、経済再生なくして財政健全化なしとの方針の下、デフレ脱却に取り組むとともに、全世代型社会保障への転換とその安定財源確保のための消費税率 10%への引上げを経て、財政健全化に大きな道筋をつけてきた。今後とも、経済再生と財政健全化の両立を図り、2025 年度のプライマリーバランス黒字化、同時に債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指す。また、税制は経済社会のあり方に密接に関連するものであり、今後とも、格差の固定化につながらないよう機会の平等や世代間・世代内の公平の実現、簡素な制度の構築といった考え方の下、検討を進める。

以下、令和2年度税制改正の主要項目及び今後の税制改正に当たっての基本的考え方を述べる。

デフレ脱却と経済再生

イノベーション強化に向けた取組み

① オープンイノベーションに係る措置

既存企業が従前の閉鎖的でコストの高い自己開発にこだわることなく、新たな分野に投資するなど自ら事業革新を進めることは、この時代において企業が生き残るために必要不可欠である。そのための手段として、新しい技術・ノウハウ等を持つイノベーションの担い手であるベンチャー企業と協働し、オープンイノベーションの取組みを重点的に進めていくことが重要であり、税制においても、事業会社による一定のベンチャー企業への出資に対し、極めて異例の措置ではあるが、出資の一定額の所得控除を認める措置を設けることとする。その際、こうした趣旨に沿って利用されるよう経済産業大臣による確認の仕組みや、一定期間内に出資した株式を処分等した場合は、取り戻し等を行う仕組みを設ける。

② 投資や賃上げを促すための措置

企業におけるいわゆる内部留保、特に現預金はいまなお増加してきている。

積極的な投資や賃上げなどの重要性については、これまでの累次の与党税制改正大綱で指摘してきたところであるが、経営者自身の意識改革が重要であり、「攻めの経営」に向けた自己改革と挑戦を改めて強く求めたい。今回の税制措置の効果についてもしっかりと検証する必要がある。加えて、いわゆる内部留保、特に現預金に対しては、以下の措置を併せて講ずることとする。

イ 企業マインドを変革させ、果断な経営判断を促す観点から、収益が拡大しているにもかかわらず賃上げも投資も消極的な企業に対し研究開発税制などの租税特別措置の適用を停止する措置を強化する。

ロ 大企業に対する賃上げ及び投資促進税制について、設備投資額が増えてきている状況に鑑み、設備投資要件を強化し、賃上げへのインセンティブを通じた税制効果を発揮しやすくなるよう見直す。

ハ 一部の大企業において、接待飲食費の特例によって交際費が大きく変化している状況とは言えず、現預金の大幅な減少に寄与していないことから、資本金の額等が 100 億円超の大企業について、この特例の対象法人から除外する。

③ エンジェル税制の見直し

少額の投資家にもエンジェル投資の裾野が広がってきている現状を踏まえ、クラウドファンディングを通じたエンジェル投資の利便性を向上するなど、エンジェル税制を見直し、次世代のイノベーションの担い手たるベンチャー企業に対する資金の流れを強化する。

④ 国立大学法人等に対する個人寄附の促進

日本のイノベーション・エコシステムの中核となる国立大学法人等の研究力強化に向け、国立大学法人等への個人寄附の税額控除の対象事業にイノベーティブな研究に挑戦する若手研究者に研究費を助成する事業を加えるなど、国立大学法人等の更なる外部資金調達努力を後押しする。

5G(第5世代移動通信システム)

5Gは Society 5.0 の実現に不可欠な社会基盤であり、安全・信頼性、供給安定性、オープン性が保証された5Gシステムを構築する必要がある。わが国経済社会や国民生活の根幹をなす5G情報通信インフラを早期に広く国民に普及させるため、超高速・大容量通信を実現する全国基地局の前倒し整備を支援するとともに、地域活性化や地域の課題解決を促進するため、地域の企業等様々な主体が、自ら5Gシステムを構築可能とするローカル5Gの整備を支援することが極めて重要である。こうした点を踏まえ、新たに制定される特定高度情報通信等システム普及促進法(仮称)に基づく認定導入計画(仮称)に従って導入される5Gシステムに係る一定の投資について、早急に、期間を限定した上で、国家戦略としての5Gシステム構築を進めるための措置を講ずる。

連結納税制度の見直し

連結納税制度は、企業の組織再編成を促進し、わが国の企業の国際競争力の維持強化と経済の構造改革に資することになるとの考えに基づき、平成 14 年度に導入されて以降、18 年が経過した。その間、本制度は企業グループの一体的経営を進展させ、競争力を強化する中で有効に活用されてきた。一方、親法人への情報等の集約化の程度は様々である、本制度の下での税額計算が煩雑である、税務調査後の修正・更正等に時間がかかり過ぎる、といった指摘があり、損益通算のメリットがあるにもかかわらず、本制度を選択していない企業グループも多く存在する。

このため、企業の機動的な組織再編を促し、企業グループの一体的で効率的な経営を後押しすることで、企業の国際的な競争力の維持・強化を図るため、平成 14 年度の制度創設以来 18 年ぶりに連結納税制度を抜本的に見直し、グループ通算制度へ移行する。

具体的には、企業グループ全体を一つの納税単位とする現行制度に代えて、企業グループ内の各法人を納税単位として、各法人が個別に法人税額の計算及び申告を行いつつ、損益通算等の調整を行う簡素な仕組みとすることなどにより事務負担の軽減を図る。また、開始・加入時の時価評価課税・欠損金の持込み等について組織再編税制と整合性が取れた制度とすることで、時価評価課税や繰越欠損金切り捨ての対象を縮小する。

国際競争が激化する中、企業が事業再編を迅速かつ戦略的に行えるよう、税制も含めた各般の制度を引き続き見直していく。

その他考慮すべき課題

租税特別措置については、特定の政策目的を実現するために有効な政策手法となりうる一方で、税負担の歪みを生じさせる面があることから、真に必要なものに限定していくことが重要である。このため、毎年度、期限が到来するものを中心に、各措置の利用状況等を踏まえつつ、必要性や政策効果をよく見極めた上で、廃止を含めてゼロベースで見直しを行う。また、租税特別措置の創設・拡充を行う場合は、財源を確保することやいたずらに全体の項目数を増加させないことに配意する。

住宅市場に係る対策については、住宅投資の波及効果に鑑み、これまでの措置の実施状況や今後の住宅市場の動向等を踏まえ、必要な対応を検討する。

中小企業等の支援、地方創生

中小企業等の支援

地域経済の中核を担う中小企業は深刻な人手不足等に直面している。これまで、中小企業の設備投資等の促進や事業承継に対する支援など、生産性向上や担い手を確保するための財政支援を行ってきた。令和元年度税制改正においては、生産性向上や、先進的な設備投資の後押し、防災・減災対策のため、中小企業等向けの投資促進に係る各種税制の延長・創設等を行った。引き続き、これらの制度の活用促進に努める。

令和2年度税制改正においては、中小企業とベンチャー企業の協働によるイノベーションを推進し、これにより、中小企業が自らの事業の革新を図ることを応援するために、中小企業からベンチャー企業への出資について、所得控除を認める措置を創設する。地域経済やコミュニティの維持・活性化といった地域課題の解決に資するローカル5Gについて、地域の中小企業等においても設備投資を促進するため、一定の償却資産に係る固定資産税の特例措置を創設する。

なお、地域活性化の中心的役割を担う中小企業の経済活動を支援する観点から、中小企業における交際費課税の特例については、見直しを行うことなく2年延長する。

地方創生の推進

① 地方創生の充実・強化

わが国は急速な人口減少局面にあることに加え、地方においては東京圏等への人口流出と地域経済の縮小が進んでいる。人口の東京への過度な集中を是正すべく、首都圏から地方に移転する企業が地方拠点強化税制をより積極的に活用するよう促すため、雇用の増加に対するインセンティブを強化するなどの見直しを行った上で2年延長する。また、志ある企業の地方への寄附による地方創生の取組みへの積極的な関与を促すことにより、地方への資金の流れを飛躍的に高めるため、地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)について、手続きの抜本的な簡素化・迅速化のほか、更に寄附しやすくなるよう税額控除割合を現行の3割から6割に引き上げた上で、5年延長する。

5Gシステムインフラは、新たな次元の情報基盤ツールを提供するものであり、5G整備促進は、地域経済やコミュニティの維持・活性化といった地域課題の解決に大いに資することとなる。

② 低未利用地の活用促進

取引価額が低額の土地については、取引コスト等が相対的に高いことがネックになり取引が進まず、利活用されないまま所有されている場合がある。

こうした土地のうち一定のものに係る譲渡所得を対象に 100 万円の特別控除を設け、取引の活性化を通じ低未利用地の活用を促進し、地域の価値向上を支援する。

③ 所有者不明土地等に係る固定資産税の課題への対応

近年、所有者不明土地等が全国的に増加しており、公共事業の推進や生活環境面において様々な課題が生じている。所有者情報の円滑な把握、所有者不明土地等の発生の予防、円滑な利活用の促進や適正管理の観点から、政府全体として取組みを推進しているが、固定資産税の課税においても、所有者情報の円滑な把握等が課題となっている。

固定資産税の納税義務者は、原則として登記記録上の所有者であるが、当該所有者が死亡している場合には、「現に所有している者」(通常は相続人)となる。納税義務者が死亡し、相続登記がなされない場合、新たな納税義務者となる「現に所有している者」を課税庁が自ら調査し、特定する必要があり、当該調査に多大な時間と労力を要し、迅速・適正な課税に支障が生じている。

また、土地や家屋を使用収益している者がいるにもかかわらず、所有者が正常に登記されていない等の理由により、課税庁が調査を尽くしてもなお当該資産の所有者が一人も明らかとならない場合においては、固定資産税を課すことができず、課税の公平性の観点から課題がある。

これらの課題に対応するため、迅速・適正な課税に資する観点から、相続人等に対し、「現に所有している者」として、その氏名、住所等を申告させることができる制度を創設する。

また、地方公共団体が調査を尽くしても所有者が一人も明らかとならない資産について、当該資産を使用収益している者が存在する場合、あらかじめ当該使用者に通知を行った上で、使用者を所有者とみなして課税することができることとする。

④ 日本酒の輸出拡大に向けた取組み

近年、日本産酒類の海外需要が拡大しているが、引き続き、海外での日本産酒類のブランド価値を高めつつ、更なる輸出拡大を図るため、様々な施策を強力に進めていく必要がある。

酒税制度においては、こうした取組みの一環として、既存の酒蔵による長年の輸出拡大に向けた取組みを更に後押しするなどの観点から、「日本酒」の輸出用の製造免許を新たに設け、小規模の製造場など既存の酒蔵による輸出用の製造場の新設を可能とすることや、海外向けの生産を国内生産に誘導・回帰させること等を通じて、更なる輸出拡大を図る。

その際、「日本酒」の品質の確保やブランドの確立が図られ、全国の酒蔵が安心して酒造りに取り組めるよう、関係者の理解を得つつ、適切な制度運用を確保しながら実施する。

経済のグローバル化・デジタル化への対応

経済のデジタル化への対応

① 背景・問題意識

デジタル技術は経済活動の隅々まで浸透しつつあり、「経済のデジタル化」が急速に進展している。このような時代の変化に対し、モノを中心とした産業時代に形成された国際課税原則、すなわち、「恒久的施設(PE:Permanent Establishment)なければ課税なし」や「独立企業原則」が適切に機能しないといった問題が顕在化している。

「PEなければ課税なし」という原則は、外国企業の事業所得に課税するためには自国内に工場や支店などの物理的拠点を必要とするもので、多国籍企業に対する国家の課税権を配分する機能を果たしてきた。しかし、企業がデジタル技術を活用することで、物理的拠点を伴わずに国境を越えて大規模なサービスを展開することが可能となっており、同原則の見直しが必要となっている。

「独立企業原則」は、多国籍企業グループ内の取引をあたかも独立した企業同士の取引とみなして、それぞれが果たす機能や負担するリスク等を評価することで、各国間で課税できる利益を配分するルールであるが、経済取引のデジタル化・無形資産化が進むにつれて、同原則の適用が困難な場面が増えてきている。

また、経済のグローバル化・デジタル化の進展により、知的財産等の国境を越えた取引が拡大し、軽課税国への利益移転が容易となる中、各国が低い法人税率や優遇税制によって外国企業を誘致する動きが活発化しており、過度な法人税の引下げ競争に歯止めをかけることが急務となっている。

経済のデジタル化によって生じるこうした課題への対応についてはOECDを中心に議論が行われている。目下、2020 年末までに国際的な合意をまとめるべく、以下の2つの柱からなる解決策について検討が進められている。

解決策の「第1の柱」では、多国籍企業の経済活動に関して、消費者やユーザーがいる国(市場国)で生み出された価値を勘案し、物理的拠点の有無にかかわらない新しい課税根拠や利益配分ルールを通じて市場国に課税権を適切に与えることが検討されている。

解決策の「第2の柱」は、多国籍企業が活動拠点をどの国に置くかにかかわらず、最低限の税負担をさせることを確保するものであり、軽課税国に所在する子会社等に帰属する所得について、親会社の所在する国で、国際的に合意された最低税率まで課税する方策等が検討されている。

② 基本的考え方

平成 29 年度与党税制改正大綱で示したとおり、国際課税は、経済のグローバル化や経済活動の複雑化・多様化が進む中で、経済発展に貢献する健全な企業活動を支援しつつ税源を守るという、国家の基盤に関わる課題である。これを踏まえ、政府が国際的な議論に取り組むに当たり、以下の5つの視点が重要となる。

イ 安定的かつ予見可能な投資環境の構築

一国主義的な課税措置によって各国が協調せずにばらばらに対応策を講ずれば、企業のビジネス展開上の不確実性を増加させ、健全な企業活動に負の影響をもたらす。このため、国際合意に基づいた解決策を早期に見出し、企業にとって安定的かつ予見可能な投資環境を構築することが重要である。また、今般の国際課税原則の見直しは、国際協調の下、各国が同様の制度を導入することで実効性が期待できる。

ロ 企業間の公平な競争環境の整備

経済のデジタル化に対する解決策は、企業間の公平な競争環境を整備し、わが国企業の国際競争力の維持及び向上につなげなければならない。

第1の柱は、企業の居住地国等と市場国の間の課税権の配分の変更であるが、わが国や市場国に適切に利益を計上している企業の税負担には大きな影響を与えないものとする必要がある。また、第2の柱は、軽課税国に利益を移転することで租税回避を行っている多国籍企業の税負担を適正化するなど、企業が経済活動の拠点をいかなる国に置くかにかかわらず最低限の税負担を確保することによって、公平な競争環境を整備するものでなければならない。これら2つの柱により、海外企業との公平な競争条件を確保し、わが国企業の健全な海外展開を支援するものとすることが重要である。

ハ 新ルールの適用対象の明確化等

新たなルールの導入に当たっては、企業に不測の影響を与えないように、対象となるビジネスの範囲を適切に限定しつつその定義を明確に定めるなど、合理的かつ明瞭な制度にすることが重要である。

ニ 過大な事務負担及び二重課税の防止

新しいルールの執行が企業に過度な事務負担を課さないように配慮することが必要である。また、二重課税が生じないよう、強力な紛争防止・解決メカニズムを構築することも重要である。この点、新たなルールを可能な限り明確で簡素にすることは、企業の事務負担を軽減するとともに、課税当局と企業との間の紛争を防止することにもつながる。

ホ 法人税の引下げ競争への対抗

無形資産等に関連する利益の軽課税国への移転がますます容易になる中、「底辺への競争」とも言われる法人税の引下げ競争を放置すれば、どの国の財政も立ちゆかなくなり、そのしわ寄せは、容易には国境を越えられない中小企業や個人に特に重く及ぶことになりかねない。

海外への投資は、企業競争力の向上や投資先の市場環境の活用といった事業目的で行われるものであり、税負担の軽減を目的とすべきではない。投資を惹きつけるための法人税の引下げ競争に歯止めをかけ、各国の税源を守る措置を国際協調の下で進めていくことが必要である。

最後に、2020 年末までに国際的な解決策をとりまとめるためには、BEPS包摂的枠組みに参加する 130 超の全ての国・地域からの妥協の精神に基づく合意が必要となる。わが国はこれまで、OECD租税委員会議長を輩出し「BEPSプロジェクト」を主導してきたほか、本年はG20 議長国としても積極的に議論に貢献してきた。当調査会は、日本政府が、以上に示した考え方をOECDを中心とする国際的な議論に十分に反映させるとともに、来年末までの国際的な合意に向け一層主導的な役割を果たしていくことを強く求める。併せて、国際課税制度が大きな変革を迎える中、国内法制・租税条約の整備及び着実な執行など適時に十全な対応ができるよう、国税当局の体制強化を行うものとする。

国際的な租税回避・脱税への対応

日本企業の健全な海外展開を支えつつ、国際的な租税回避や脱税に対してより効果的に対応する観点から、これまでわが国は「BEPSプロジェクト」の合意事項等を踏まえ、租税回避防止措置等に関する累次の制度整備を行ってきた。令和2年度税制改正においては、子会社株式の譲渡等により譲渡損失を創出させる租税回避に対処するための見直しを行う。国際的な租税回避や脱税への対応については、今後も引き続き、租税回避の態様等を踏まえ必要な見直しを迅速に講じていく。

また、90 か国以上が非居住者に係る金融口座情報の自動的交換(共通報告基準に基づく情報交換)を開始し、わが国では、取得した金融口座情報の活用により申告漏れの判明につながるなど、具体的な成果が現れ始めている。今後も、国際的な租税回避や脱税を防止するため、一層効果的な情報の活用を図るとともに、国際的な議論を踏まえながら必要な制度の整備を行っていく。

環境と成長の好循環の実現

気候変動問題などの地球規模の課題が顕在化している。IPCCによれば、極端な気象現象の増加や人の健康・生態系へのリスクは、工業化以降の平均気温の上昇が 1.5℃の場合において増加し、2℃においては更に増加すると予測されている。持続可能な開発目標(SDGs)を踏まえ、持続可能な社会を構築するためにも、2020 年から実行段階に移るパリ協定に基づき、脱炭素化に向けた取組みを加速することが重要である。わが国は本年「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を策定し、環境と経済成長との好循環の実現のため、幅広い施策を横断的に実施することとしている。

経済社会の構造変化を踏まえた税制の見直し

経済社会の構造変化を踏まえた個人所得課税のあり方

個人所得課税については、わが国の経済社会の構造変化を踏まえ、配偶者控除等の見直し、給与所得控除・公的年金等控除・基礎控除の一体的な見直しなどの取組みを進めてきている。今後も、これまでの税制改正大綱に示された方針を踏まえ、働き方の多様化を含む経済社会の構造変化への対応や所得再分配機能の回復の観点から、各種控除のあり方等を検討する。また、適正な記帳の確保に向けた方策を講じつつ、事業所得等の適正な申告に向けた取組みを進める。

人生 100 年時代に対応するための環境整備

① 私的年金等に関する公平な税制のあり方

働き方やライフコースが多様化する中で、老後の生活に備えるための支援について、働き方によって有利・不利が生じない公平な税制の構築が求められている。諸外国を見ると、例えばイギリスやカナダにおいては、加入する私的年金の組み合わせにかかわらず同様の非課税拠出が行えるように、各種私的年金に共通の非課税拠出限度額が設けられている。こういった諸外国の例も参考に、わが国においても、働き方によって税制上の取扱いに大きな違いが生じないような姿を目指す必要がある。

年金課税については、拠出・運用・給付の各段階を通じた適正かつ公平な税負担を確保することが必要である。諸外国を見ると、日本の公的年金等控除のような、年金収入に対する大きな控除はなく、基本的に拠出段階、給付段階のいずれかで課税される仕組みとなっている。わが国においてもこういった例を参考に、世代内・世代間の公正性を確保する観点から検討を進めていく。

また、現在の退職給付は一時金での受け取りが多いが、税制についても、給付が一時金払いか年金払いかによって税制上の取扱いが異なり、給付のあり方に中立ではないという課題がある。また、一時金払いの場合、勤続期間が 20 年を超えると一年あたりの控除額が増加する仕組みとなっており、転職などの増加に対して対応していないといった指摘もある。税制が老後の生活や資産形成を左右しない仕組みとするべく、給与・退職一時金・年金給付の間の税負担のバランスについても考える必要がある。

あわせて、金融所得に対する課税のあり方について、家計の安定的な資産形成を支援する制度の普及状況や所得階層別の所得税負担率の状況も踏まえ、税負担の垂直的な公平性等を確保する観点から、関連する各種制度のあり方を含め、諸外国の制度や市場への影響も踏まえつつ、総合的に検討する。

令和2年度税制改正においては、高齢期の長期化や就労の拡大・多様化等に対応するための確定拠出年金等の加入可能年齢の見直しや、中小企業向け制度の対象範囲の拡大等の私的年金の見直しに伴い、現行の税制上の措置を適用することとする。

② 成長資金の供給と家計の安定的な資産形成支援の観点からのNISA制度の見直し・延長

経済成長に必要な成長資金の供給を促すとともに、人生 100 年時代にふさわしい家計の安定的な資産形成を支援していく観点から、NISA制度について、少額からの積立・分散投資をさらに促進する方向で制度の見直しを行いつつ、口座開設可能期間を延長する。

基本的な制度としては、非課税期間5年間の一般NISAについては、より多くの国民に積立・分散投資による安定的な資産形成を促す観点から、積み立てを行っている場合には別枠の非課税投資を可能とする2階建ての制度に見直したうえで、口座開設可能期間を5年延長する。投資対象商品については、1階部分はつみたてNISAと同様とし、2階部分は、現行の一般NISAから高レバレッジ投資信託など安定的な資産形成に不向きな一部の商品を除くこととする。また、非課税期間 20 年間の現行のつみたてNISAについては5年延長し、ジュニアNISAについては、利用実績が乏しいことから延長せず、新規の口座開設を 2023 年までとする。

未婚のひとり親に対する税制上の措置及び寡婦(夫)控除の見直し

全てのひとり親家庭の子どもに対して公平な税制を実現する観点から、「婚姻歴の有無による不公平」と「男性のひとり親と女性のひとり親の間の不公平」を同時に解消するために、次の措置を講じる。

未婚のひとり親について寡婦(夫)控除を適用する。この際、適用する条件は死別・離別の場合と同様とする。

寡婦(夫)控除について、寡婦に寡夫と同じ所得制限(所得 500 万円(年収678 万円))を設ける。あわせて、住民票の続柄に「夫(未届)」「妻(未届)」の記載がある場合には、控除の対象外とする。さらに、子ありの寡夫の控除額(現行所得税 27 万円、住民税 26 万円)について、子ありの寡婦(所得税 35万円、住民税 30 万円)と同額とする。

なお、扶養親族がいない死別女性、子以外の扶養親族を持つ死別・離別の女性(所得 500 万円(収入 678 万円)以下)については現状のままとする。

資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築と格差固定化の防止

高齢化の進展に伴い、いわゆる「老々相続」が課題となる中で、生前贈与を促進する観点からも、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築が課題となっている。今後、諸外国の制度のあり方も踏まえつつ、格差の固定化につながらないよう、機会の平等の確保に留意しながら、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直し、資産移転の時期の選択に中立的な制度を構築する方向で検討を進める。こうした検討の進捗の状況を踏まえ、教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置及び結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置についても、次の適用期限の到来時に、その適用実態も検証した上で、両措置の必要性について改めて見直しを行うこととする。

円滑・適正な納税のための環境整備

デジタル技術を活用した利便性の向上等

納税者利便の向上及び官民を通じた業務の効率化を図るため、取引から申告・納付に至るまで税務関連手続の電子化を推進する。

電子請求書や各種決済データを経理に活用すれば、取引先との間でも社内他部署との間でも書面の授受を行う必要はなくなる。それらのデータが電子帳簿と連携すれば、記帳の正確性を確保する観点からも有益である。こうした利点を踏まえ、請求書等の電子化を推進し、企業等の生産性向上を後押しする観点から、電子帳簿保存法の見直しを行う。

引き続き、スマートフォンの利用など利便性の高い申告環境の整備に取り組むとともに、納付や各種申請も含めた手続きの電子化・簡素化を推進する。

消費税の申告期限の延長

働き方改革が進められる中、企業は非効率な業務プロセスの見直し等を行い、従業員の生産性をより一層向上させる等の取組みが求められている。

企業の事務負担の軽減や平準化を図る観点から、法人税の申告期限を延長することができる企業について、消費税の預り金的な性格を踏まえつつ、消費税の申告期限を1か月に限って延長する特例を創設する。

利子税・還付加算金等の割合の引下げ

利子税について、市中金利の実勢を踏まえ、その割合の引下げを行う。還付加算金等の割合についても、同様に引下げを行う。

国外財産調書制度等の見直し

適正な課税のためには税務調査を通じた的確な事実認定が不可欠である。一方、国外において行われた取引等については、執行管轄権の制約上、税務当局が直接現地に赴いて事実関係を確認することが困難である。このため、納税者による適切な情報開示を促す観点から国外財産調書制度及び更正・決定の除斥期間について見直しを行う。

国外居住親族に係る扶養控除等の見直し

国外居住親族に係る扶養控除等の適用について、所得要件の判定において国内源泉所得が用いられているために、国外で一定以上の所得を稼得している親族でも控除の対象とされているとの指摘を踏まえ、30 歳以上 70 歳未満の成人のうち、留学生や障害者などを除く者について、扶養控除を適用しないこととする。

税務執行体制の一層の充実

経済社会が急激に変化する中、税制を円滑かつ公平に執行するため、税務当局においても、ICTの活用等により業務プロセスの合理化に取り組むとともに、必要な定員の確保等の税務執行体制の一層の充実を図る。

地方税務手続の電子化の推進

地方税務手続において、ICTの活用等を通じ、納税者利便の向上や事業者等の事務負担軽減に取り組む上で、eLTAX(地方税のオンライン手続のためのシステム)の機能を拡充しつつ、その活用を積極的に進めていくことが重要である。本年 10 月に eLTAX の機能の一つとして導入された地方税共通納税システムの対象税目について、新たに個人住民税の利子割・配当割・株式等譲渡所得割を対象とし、金融機関等の特別徴収義務者が eLTAX を通じて電子で申告及び納入を行うことができるよう、所要の措置を講ずる。

固定資産税(償却資産)の電子申告については、納税者・地方公共団体双方の事務の簡素化・効率化の一層の促進に向け、eLTAX の利便性や機能の改善等を進め、電子申告率の向上に資するよう環境整備を図る。

給与所得に係る個人住民税の特別徴収税額通知(納税義務者用)の電子化については、地方公共団体及び特別徴収義務者の理解を得ることに留意しつつ、個人情報の適正な取扱いを確保した上で、個々の納税義務者に電子的に送付することができる体制を有する特別徴収義務者に対して eLTAX を経由し送付する仕組みの導入に向けた取組みを進める。

その他

たばこ税の見直し

近年急速に販売が拡大している軽量な葉巻たばこについては、紙巻たばこに類似しているものの、紙巻たばことの間に大きな税率格差が存在し、課税の公平性に問題が生じている。

このため、たばこ市場・産業への影響、中長期的な国・地方の税収への影響なども踏まえ、紙巻たばこと同様の課税方式への見直しを行う。その際、たばこ関係事業者への影響も勘案し、段階的に実施する。

また、望まない受動喫煙対策や今後の地方たばこ税の安定的な確保の観点から、地方たばこ税の活用を含め、地方公共団体が積極的に屋外分煙施設等の整備を図るよう促すこととする。

法人事業税の課税方式の見直し

電気供給業については、2020 年の送配電部門の法的分離、新規参入の状況とその見通し、行政サービスの受益に応じた負担の観点、地方財政や個々の地方公共団体の税収に与える影響等を考慮の上、これらの法人に対する法人事業税の課税方式の見直しを行う。

また、電気供給業を含め収入金額による外形標準課税については、地方税体系全体における位置付けや個々の地方公共団体の税収に与える影響等も考慮しつつ、その課税のあり方について、今後も引き続き検討する。

東日本大震災からの復興

東日本大震災からの復興に関し、次期通常国会における復興・創生期間後に向けた東日本大震災復興特別区域法及び福島復興再生特別措置法の見直しに当たり、復興の進捗状況を踏まえ、復興特区税制について対象地域を重点化するとともに、福島特措法税制について福島イノベーション・コースト構想を軸とした産業集積及び風評払拭に係る課税の特例の規定を設ける。

 

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令和2年度税制改正大綱の具体的内容については、以下をご覧ください。

【税制改正速報】令和2年度税制改正大綱 個人所得課税
【税制改正速報】令和2年度税制改正大綱 資産課税
【税制改正速報】令和2年度税制改正大綱 法人課税
【税制改正速報】令和2年度税制改正大綱 消費課税
【税制改正速報】令和2年度税制改正大綱 国際課税
【税制改正速報】令和2年度税制改正大綱 関税
【税制改正速報】令和2年度税制改正大綱 検討事項

問い合わせ内容の一例と男性。LINE対応可能。

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税制改正勉強会-令和2年度税制改正

2019年12月28日に、税理士および税理士事務所の職員を対象に、令和2年度税制改正勉強会を開催します。

注意事項
※1 本記事は2019年12月12日に公表された、与党税制改正大綱に基づき記載しております。
※2 2019年12月12日現在、閣議決定されていないため、実際の改正内容と異なる場合があります。
※3 本記事に記載された内容に従って行動された結果生じた損失について、弊社では一切の責任を負いかねます。

 

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